「シュリ」★3/5

Kakeru2005-02-05


「展開の読めてしまうストーリー」「恋愛描写のうすっぺらさ」「無限弾倉を持っている不死身の北工作員
日本映画にあきらかに欠けているものは、せいぜい市街地での堂々の銃撃戦ロケくらい、のはずなのに! にしても……



映画作品そのものとしてのグランドデザインの組み立て方、製作者の意志の力みたいな部分の根本的な力。それが韓国映画のアドバンテージだと思う。

こういう映画を作るんだ! といった発想と、それを具体化しようとする原動力。日本映画のほとんどは、そういった映画としての第一歩をふみ出す所で、ガツンと差をつけられてしまっている。

マーケティングや広告代理店、妙に力の強い芸能事務所や、ベタなタイアップ。それからPC的“配慮”みたいなものをとっぱらったら、すこしはそんなエネルギーがスポイルされずにすむ……だろうか。


※以下はネタバレを含みます


もちろん、プリミティブな分、大味なところもある。

例えば、全ての水槽から魚がザァーっと……なんて描写は、動物虐待にうるさいイギリスを筆頭に、日本やハリウッドでもできないだろうし(もちろんカッターさばいちゃうことも)、今さらそんな発想自体が出てこないと思う。

それに、この映画の大テーマであるかのように言われることの多い「南北問題」にしても、「朝鮮半島の現実」とか「平和ボケの日本人にはわからない緊迫感」といったベクトルで存在しているとは思えない。

「祖国統一万歳!」これはまだわかるにしても、「北には餓死者がいるのに、南では盛り場でゲロ……」といったあたりになると、リアリティーよりもシナリオの流れや勢いが優先されている雰囲気を感じた。

そしてその工作員は「無限弾倉」を持っていて「不死身」。彼等が『スターシップ・トゥルーパーズ』の昆虫軍みたいなカリカチュアライズで映画のワクにはめ込まれている時点で、これは史実でも現実でもない。

そういった演出面の部分を評価することはできないけれど、でも、その発想が出てくることや、それをそのまま映像、作品にしてしまうワイルドなエネルギーそのものについては、どこかうらやましさも感じてしまった。

そう考えたときに、日本で“しがらみ”だらけのテレビ局が、「大作」映画を作りたがる悪循環をやめさせたいなあ、と思わされてしまったのはたしかだった。


でも、この映画に届いていない日本映画はあるからといって、「日本映画は韓国映画にかなわない」とか「日本を追いこしハリウッドに近づいた」なんて手放しに言ってしまえば、それはひいきの引き倒し。
脚本や演出の細かいクオリティは、一般的な日本映画の方が上質だと言い切ってもいいと思う。

なので、公開当時の「大絶賛」みたいな空気には「?」

実際、情報機関OPのオフィスのパソコンのモニターや、武装チームのボディアーマーにデカデカと「OP」ってロゴが入っているのは、映画というよりは昔の「トクサツ」ノリ(いまや『ゴジラ』でもそんなことはしない)。

液体爆弾の設定や造型、描写とかも、仮面ライダーや戦隊モノの「秘密結社の最終兵器」の文法で作られている感じのチープさで、笑いすら誘う。
無力化する方法がシンプルで強引なあたりまでトクサツっぽい(同じ液体爆弾でも『ダイ・ハード 2』とはくらべようもないトンデモ度)。


そういう意味では、この映画はちょっと持ち上げられすぎだったと思う。
そんなふうに、ハヤリものをやたらと持ち上げちゃうのもまた、日本メディアと日本人の悪いところなんだろう(CinemaScapeシュリ」拙コメントより)


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あと、敬礼と銃の扱いが上手なのも日本映画が絶対にかなわない(そして永遠に追いつけない)ポイントかな、っていうのはある。

それにしてキム・ユンジン(写真)
ちょっと寺島しのぶに似てる。