「 シルミド/SILMIDO」★3/5

Kakeru2005-02-04


『シュリ』とは比べようもない“事実”の重み。その凄みが観る者の喉元につきつけられる。
しかし、それこそがまさに両刃の剣。「映画」としてのこの作品に、様々な手枷足枷を強いているようにも見えた。



北朝鮮特殊部隊による青瓦台襲撃事件に対する報復として、計画された金日成暗殺とそのための特殊部隊……こうやって文字にしてしまうと、『シュリ』や『JSA』どころではない荒唐無稽な話に思えるのに、これが全て史実、事実だというところに、この映画の有無を言わせない凄みがある。

そして、これだけの大事件を30年隠蔽していた、ということにもガツンとやられた。やっぱり、韓国という国は今も臨戦態勢の国なんだな、と思い知らされる(考えてみれば、戒厳令だってそう遠い昔の話じゃない)

日本映画がどんなシビアなテーマを取り上げようとしたところで、せいぜいテレビ時代劇レベルのチャンバラにしかならないのに対して(『宣戦布告』なんてポリティカルシミュレーションとしては洒落にもなっていない)、彼の国の現実は「すぐそこにある戦争」という抜き差しならない状況にあるのだ。


韓国映画は、大きく二つの流れに分けられるかもしれない。 『チング』、『八月のクリスマス』、『イルマーレ』というラインの韓国映画を観たときには、もう日本では描けないかもしれない素直さ、率直さを感じ、それが好印象につながった。

しかし、日本における韓国映画ムーブメントの起爆剤になった『シュリ』に関して言えば、そのテーマはともかく、ストーリーや演出はともすれば“トンデモ”系になってしまいそうな破天荒さで、あの映画そのものについては、今もそれほど高い評価をされるべきものではないと思っている(このラインの作品を上げるとすると、『JSA』や『火山高』になるだろうか)


しかし、この作品は違う。
第一に、事実に基づいて作られている、という“重さ、凄み、これが何よりも大きい。
そして、その史実への配慮やリスペクトもあるのだろうし、『シュリ』での“不死身の特殊部隊”、“無限弾倉”といったトンデモ演出は見あたらない。
史実といった背景も、スクリーンの上での出来事も、ひたすらグイグイと目の前に迫ってくる。この緊張感。この逼迫した雰囲気はすごい。

誤解を恐れずに言えば、この映画はとても高級で、キッチリと作られた「プロジェクトX」なのだ。そして、プロジェクトXが平気でバラエティ的演出(拙コメント『突入せよ! あさま山荘事件』参照)をするのに対して、そういった妥協が一切無い。
もちろん、それ自体は高く評価されるべきことだ。

しかし、その「ドキュメンタリー的手法」という制約が、この映画から「ドラマ」や「エンターテイメント」といった部分を奪ってしまっている。

終始大きな緊張感が要求される作品で、文字通り手に汗を握りっぱなしで疲れてしまうほど重厚な作品なことは間違いない。しかし、メロウやウェットをこれでもかと排した展開は、映画作品としては一種の不具でもある。


※以下はネタバレを含みます


これは事実なんだ、映画とは違うんだ、という見方はあるようだけれど、それならラストの自決シーンでとうとうやってしまった「大きすぎる爆発」、あれはどうなのか? 四人が生存した史実通りの、というか手榴弾の爆発としては、トンデモ的に規模が大きすぎる。

それを批判しているのではない。あの「演出」ができるのであれば、それまでの展開で同様のことはできたはずだ。そして、史実に対する演出は、どんなものでもマイナスに作用する……というほど、映画は硬直した芸術ではないと思う。

ドキュメントならドキュメントとして、節を通してほしかった。映画なら映画として、サイドストーリーを添加するなどの演出を見せて欲しかった。
虻蜂取らずになってしまったことで、何かがスポイルされていることは間違いない。

しかし、事実と映画の間で着地点を懸命に模索しただろう制作者の姿勢は信じてもいいような気がする。そこは素直に評価したい。
ドキュメントであることを強固に標榜するために、演出の介在を隠したり、大市場のためにハサミの入れ方を変えるようなマイケル・ムーアには無い誠実さが感じられるからだ。

事実に対するショックとリスペクトは★5。しかし、「映画」としての成り立ちを欠く部分に−★2、結果★3。(CinemaScapeシルミド」拙コメントより)


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ポスターやパッケージに使われているこの写真。観終わった後から見ると……実はネタバレって感じもありますね。
もちろん「そうだったのか!」って納得させられるような感じだから、ネタバレというよりは「シカケ」って感じでしょうか。