「インビジブル」★3/5

Kakeru2005-02-11


SFとしてのアプローチのしかた、CG映像の作画や演出は圧倒的に正しく、人間の性悪説描写も確実に一面の真理を捉えている。
しかし、セバスチャン(ケビン・ベーコン)の人物設定が、ドラマの盛り上がりをスポイルしているように見えたのが残念。



バーホーベンらしいスピーディーな立ち上がりで始まるこの映画。「とにかくもうゴリラが透明になってます、以下略!」という舞台設定の強引さ。その強いエネルギーが見る者の首根っこをつかまえ、作品世界にグイグイと引っぱっていく。
「とにかく透明になる」というところで筆が止まれば単なるトンデモ映画。しかしこの作品は血管の構造やプラスティネーション標本の考察をキッチリと盛り込んで、「それらしい」世界のお膳立てをキッチリ作り込み、見るものを上手にダマしてくれる。
医学的生理学的な描写を緻密にやっているような迫力のCGは、じつは血の循環一つとっても「それっぽく見える」ことに徹底した演出的虚構。そして、だからこそそれを評価したい。
SFであってもエンターテイメントであることを優先。「精密厳密な科学考証の存在」をプライオリティーとして次点に回した姿勢はシンプルで、そして正解のはずだ。科学的事実をすっ飛ばしてでも映像としての説得力(=観客を楽しませる力)を持たせる。映画というマジックで作り手のマジシャンズチョイスが成功している好例だろう。


※以下はネタバレを含みます


また、透明人間になったセバスチャンが、どんどんダークフォースを増強させていくことはたしかに性悪説的アプローチなのだけれど、見るもののシンパシーを確実に捉えてしまう。観客は、どうにも彼の欲望を否定できないし、彼の次の行動に期待するほどにまでになってしまう。

……だからこそ、彼の人物設定がこの物語のカタルシスを中途半端にしているのだ。

天才科学者セバスチャンは、功名心や独善に凝り固まったイヤな奴として登場する。研究の成果は独占しようとするし、同僚のことを当然のように自身より低い存在と考えるような“悪者”だ。
となるとこの映画、“悪者”セバスチャンが透明人間になってしまうのだから、観客としては当然「何かやるに違いない」という“期待”をしてしまう。
そして、観客は期待通りにしたい放題振る舞ってくれる彼にシンパシーさえ持ったりする、というのは前述の通りなのだが、見る者が“悪者”に期待、というか予想することがもう一つある。「悪は悪として滅ぶだろう」という、物語の起承転結のパターンだ。悪の暴走ぶりが心地よく、むしろバッドエンドを期待したくなっている観客がいたとしても、「当然の帰結」が思い浮かんでしまう構造的な呪縛からは逃れられない。
結果として、セバスチャンはその期待も裏切らない。ある意味、物語性としてとても「正しい」キャラクターだ、ということになる。


これがもし、彼が誰からも好かれる好人物として設定されていたとしたらどうだろう。
当初は、透明になったことが単純に面白く、当直の研究員にイタズラしたりしていたが、だんだんと悪行と欲望をエスカレートさせていくセバスチャン。こっそり研究施設を抜け出すようになった頃には、外の世界でイタズラでは済まされないような事件を起こすようにまでなってしまう。
しかし、彼の顔の表情にどんな翳りが増していったとしても、それを目にすることができる者は誰もいない。やがて、いつまでたっても元の姿に戻れないことにいらだってきた彼は、その被害者意識も相まってどんどんダークフォースに飲み込まれていってしまい、そして……。
ホラーというか、心理劇としてはこの方が怖くなったと思うのだが、どうだろう。ターミネーター化してしまうことも、悪魔に魅入られたから、みたいな描写をすることもできたかもしれない(教会の玄関にどうしても入れないとか……となればちょっとやり過ぎにしても、大火傷しても死なない、といった言いっぱなしやりっ放しのクライマックスよりはマシだろう)


少なくとも、どこにでもいそうなカップルを無理矢理正義の味方みたいにして、力技で大団円にしてしまうよりはよかったと思う(第一生き残った彼等にしても、そう遠くない将来“消されて”しまいそうな結末だったし)

一観客としての素直な願望としては「悪魔と化してしまったセバスチャンに、友人である同僚たちが、悲しいけれども自分達の責任として引導を渡す」そういう結末で納得“させられ”たかった。(CinemaScapeインビジブル」拙コメントより)


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結局のところ、バーホーベンの仕事だったんだなぁと、様々な意味で納得させられました。
結局このにっかつロマンポルノ(写真)みたいなことがしたかっただけなんだよね、予算使った映画で。

どうでもいいけど、このロマンポルノの登場人物に「ビデ婦人」っていうのがいて、不覚にもちょっと笑わされてしまった。