「ザ・インタープリター」★3/5

ショーン・ペンなり、ニコール・キッドマンのファンなら、充分に楽しめる作品には仕上がっている。
ニコール・キッドマンは芸域が広がったと鼻高々かもしれないけど、ショーン・ペンは体のいい小遣い稼ぎを淡々とこなしていたようにも見えた。



もちろんショーン・ペンは好演している。彼がじっと見つめたり、小首をちょっとかしげるだけで、そこには存在感と演技力の塊が圧倒的におとずれる。でも、だからといって彼の所作や振る舞いだけに映画の本質を成立させるわけにはいかない。

個人的にはニコール・キッドマンのメガネっ子姿にドキドキしたりもしたのだけれど、それで万事オッケーになっちゃうような作品ではない(『スカイキャプテン』だったら、アンジェリーナ・ジョリーの眼帯だけで全部オッケーにしちゃってもかまわないけれど)


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※以下はネタバレを含みます


そもそも、伏線や謎解きがこれだけ中途半端だと、サスペンスとしては致命傷だろう。脚本に穴があるというよりは、どうも全体的にヤル気がなさそうに見える。ここまで大掛かりにやってのける価値のあるシナリオとは、とても思えない。
伏線をまるで大切にしないで、種明かしやネタバレを無神経にバラまくかと思うと、思わせぶりなだけで打ち捨てられてしまうエピソードやアイテムもあったりと、かなり杜撰な作品だった。


そしてまた、なんと安易にケラー(ショーン・ペン)とシルヴィア(ニコール・キッドマン)の関係性に、クライマックスの解決の鍵を求めたことか!
ソファーで添い寝しただけの二人、それもシークレットサービスとテロリストが、「その程度」の関係性だけでカペラの間の川を渡ってしまうのだから、ご都合主義のさじ加減が強すぎる。


また、「溺れる男をどうするのか?」といった命題にどう向き合うのか、といったポイントの存在もじつは剣呑なものだろう。
これを早とちりして「911以降のアメリカに訪れた変化」とでも受け取ったりしたら大変なことになってしまいそうだ。

そもそも、ケラーにしてもシルヴィアにしても、出発点はそもそも「私怨」なわけで、あのテロとその後の報復戦争を「私怨」レベルに落し込まれてはたまらない。
「暗殺未遂でハクが着く」ではないけれど「赦したフリをしてハクが着く」とでもしておきたいのだろうか。そういう意味では、いかにも戦時体制のアメリカから出てきそうな作品、とも思った。

例によって「いささか難アリ」の戸田奈津子訳だったけれど、一つ上げるとしたら「集会で抗議の焼身自殺」をアッサリ「集会で焼死」とやっちゃったことだろうか。

あの人、ちゃんと翻訳する気がないのはとっくにわかってるけど、こうなると人間性にもちょっと問題があるような気がする。