プロジェクトXの功罪

Kakeru2003-12-29


地上波をエアチェックした『突入せよ! 「あさま山荘」事件』を鑑賞(写真は実際に使用された「鉄球」最近になって発見されたらしい)

まず、面白い映画に仕上がっていたことに驚いた。史実そのものの展開から、映画作品としてのアプローチまで、何から何まで日本的世界以外の何ものでもないのだけれど、一番のビックリはこの作品の持っている乾いたユーモアだった。


ところが、制作側が懸命にそういう切り口で「映画」を作ろうとしていたのに、この作品はとかく「警察プロパガンダ」と言われることが多い。
一つは、同じ題材を全く違うアプローチで映像化した「プロジェクトX」が先行して放送されたことが影響しているんだろう。あの事件に関係した民間人を題材にした内容は、およそ好意的に受け取られ、そして警察関係者を憤慨させた。
警察関係者にしてみれば、最前線で死傷者を出した警察官をさしおいて、凍ってしまって食べられなかった炊き出しや、1台のポンプ車で1人の消防士が水を汲み上げたかのようなありえないエピソードの方がフォーカスされた内容は受け入れられなかったのだろう。


プロジェクトX、一般的には評価の高い番組だけれど、じつは取材された側として悪印象を持っているのは、警察関係者だけじゃない。
たまたま、数人の知人があの番組に取材を受けたり、題材になった企業の社員だったりしたけれど、放送の後、好評価に困惑したり、憤慨していたのが印象的だった。「さんざん取材しておいて、番組に都合のいいところしか使わない」「あんな登場のさせかたじゃあ○○さんを出した意味がない」……等々。もしかしたら、婦人会や消防団、鉄球兄弟もそう思っているかもしれない、なんてことにもなる。
結局、あの番組が指向しているのは歴史ドキュメントではなくて、バラエティー。「事実」よりも「番組の欲しいエピソードや絵」の方が大事、ということなんだろう。

 
映画の撮影そのものは、NHKの放送と前後して終わっていたようだけれど、編集作業はその後。もし、警察プロパガンダとしてのバイアスがかかっていたとして、あの番組が影響していたら……と考えたら、作り手にとっても、観客にとっても、残念なことだったと思う。


プロジェクトX、視聴率もとったし、評判もよかった。あの番組がバラエティだと考えたら、テレビ番組としては大成功。
でも、史実を正確になぞっているかのようなパッケージと、最大の当事者だった警察への配慮を欠いていたことから、面倒なことになった。

じつは凍った炊き出しの変わりに活躍したのはカップヌードルで、あの商品が全国で認知されるきっかけになった……とも言われているけれど、その後プロジェクトXカップヌードルが取り上げられた時、あさま山荘のエピソードは取り上げられたのだろうか? 少なくとも、コミック版には1カットも登場していなかったけれど。


しかし、NHKがどんな番組を作るかということと、映画そのものはまた別な話。
第一、“スーパー佐々ハイサッサ”描写にはどうしても違和感を感じてしまった。カッコ良すぎの度が過ぎて、なんだかケビン・コスナーのオレ様映画みたいだ。

もし、原作者がこんなに有名な人じゃなくて、顔も知られていないような一警察OBだったら、そうそうプロパガンダとは言われなかったと思う。
ところが、ご本人の歳になってもハゲそうもないカッコいい役所広司が、とにかく大活躍! 佐々警視正だけがスーパーで、中央の官僚主義も、長野の田舎警察も、とにかく愚鈍に描かれているとなると、ヨイショしすぎなんじゃないか? と思われてもしかたなかったんじゃないか。

もちろん、この映画はフィクションなんだし、“スーパー佐々”も演出手法の内、ということなのかもしれない。でも、だからこそそのへんにもう少し気を遣ってほしかった。
スーパー佐々でもいいから主人公ばかりがフォーカスされないように、例えば第三者視点で物語を進められなかったか、とか、アナクロ妻とのエピソードはバッサリやるべきじゃなかったか、とか色々考えてしまうのはそのへんだ。


でも結局、現代の名優たちの芝居を、深刻な事件を乾いたユーモアで描いてみせた手法を、スポイルしてしまったのは製作者側に何かが欠落していたのかも、という気はする。
プロパガンダと受け取った観客が斜に構えてしまったのを、最後まで向き直らせることができなかったのは、語り口に力が足りなかったからなんだろう。 

だからといって、その欠落を「連合赤軍を描いていないから」とは決して思わない。
それは彼等にとっては壮大な叙事詩かもしてれないが、一般市民がエンターテイメントとして見られるようなものにはならないからだ。
暴力革命がシンパシーを持たれたような時代というのは、それを知らない世代から振り返ると、なんとも恐ろしい。
CinemaScape突入せよ! 「あさま山荘」事件」拙コメントより)


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それにしても……この映画のタイトルは、なんだか「座り」が悪い。字面も、語感も。


明日から1/3まで年末年始でお休みします。日記じゃないから休日もあります……というか、東京を脱出してネットにアクセスしにくいとこに行ってきます。もしかしたら、この期間だけ日記みたいなことを書くかも(後追いで)。

それではみなさん、良いお年を!