ジャパニーズ王子様&お姫様

Kakeru2003-12-20


12/17の「技術当然それから……」で取り上げた小嶋直也。彼はバレエダンサーとしては珍しいパーソナリティーの持ち主だ。
男女とも「飲む打つ買う」というか、少なくとも大酒飲みやチェーンスモーカー率が高く、派手目の生活をしているダンサーが多い中で、早寝早起き酒タバコとは無縁、というストイックな彼は少数派。
地方公演で一緒の部屋になったりすると、さっさと眠られてしまうので困るとか、朝も早くからせっせとアップをしているので起こされてしまう……なんて話もある。

そして、マクドナルドが大好き。
牧バレエ団の男性若手ダンサーは、稽古場の帰りに彼につかまってしまったら、歌舞伎町のいつものポーカーゲームになんて行けない。一緒に「マクドナルド」に連れていかれて、コーヒーか何かだけで、延々バレエ談義(というか説教)につきあわされてしまう。

……ここまでは、小嶋直也はマジメな人なんだなあ、という話。


でも結構このへんに、なぜ彼の舞台に「客は入らない」と言われてしまう理由があるような気もする。
まがりなりにも日本のトップ「ノーブル」。新宿辺りのマクドナルドでコーヒー飲んでる姿を人に見せるべきじゃないだろう。
 
プリマにしても、似たようなことはある。
ガラ公演で自分の出番が終わったら、ロクにメイクも落とさずにバックステージの喫煙所に直行、なんていうのは舞台裏だからとしても、居酒屋で山盛りの灰皿の前で大酒を飲んでるような人は結構いる。

もちろん、それもこれもプライベートなんだから……と言ってしまえばそれまでの話。
でも、自分がノーブル、プリマであることの自覚無しに、舞台を支配して観客に夢を見せることはできない。王子様お姫様としてのプレゼンスは日常生活にも根ざしているはず。日本のトップダンサーにはそのへんが無自覚な人が多い。
庶民的日常は「ノーブル」とは無縁。そういう日常は、決して王子様お姫様のオーラを生み出さない。
 
ところが、そういった無自覚さはダンサー個人だけではなくて、御用マスコミにまで蔓延しているのだから、日本バレエ村はもうどうしようもない。

バレエ雑誌にはよくダンサーのインタビューが載っているのだけれど、そのへんはまあアイドル雑誌のノリ。プライベートな質問があったりもする。

例えば写真の島田衣子。彼女は若手プリマとしては例外的にテクニシャンで、新作やコンテンポラリーダンスへの出演も多い。彼女は若手のプリマとしては群を抜いた存在で、バレエ村での政治的ポジションさえ強ければ、もっと有名になっていい優れたダンサーだ。

その彼女が「ダンスマガジン」のインタビューに答えた時の話。

なんと、インタビューで、「運転が好き」「愛車は○○(軽自動車の車名)」と答えてしまった。
こうなると、脇の甘さを通り越して無自覚にもほどがある。
スポーツカーでもなんでもないハッチバックの黄色ナンバーに乗っているプリマ、という絵柄は、観客に彼女のバレエをスポイルさせるだけだ。
同じバレエを見るのなら、軽自動車のハンドルを握るプリマより、お屋敷街から電車で通っているプリマの舞台の方がいいに決まっている。バレエとは「そういうもの」だ。
もっとも、島田衣子自身の踊り自体にも、どこか黄色ナンバーのようなところがある。彼女がプリマとしてブレイクできない理由はそういうところにもあるのだろう。


浅田美代子はアイドル時代、好きな食べ物は? と聞かれると「クッキー」と答えていたそうだけど、実際に今も昔も好物なのは「焼肉」だった。
それがスター本人と、マネージメント、マスコミのプロフェッショナリズムだろう。

どれだけバレエそのものに打ち込んだところで、そうそう名実ともなったスターになれるものでもない、というのがバレエという芸術の冷酷なところ。
次のバレエの話題のときには、映画『リトル・ダンサー』の話を。
あの映画は、少年ジャンプ的「友情・努力・勝利」とか、「父親の愛」といった暖かいものとは全く無縁で、「バレエ的冷酷」に支配されている……といったパラドックスについて、です。